バンクーバー生活情報とあれこれ

バンクーバー在住歴25年のHanaの個人的見解

妹からのSOS

 


“私、ワクチン打たない“

電話の向こうで、妹が唐突にそう言った。それは自分の決断を報告すると言うよりも、むしろ同意を求めているように聞こえた。


実は、正直この予想だにしなかった彼女の発言に、私はひどくショックを受け、うろたえた。勝手に海外に嫁いで、さらにこのコロナ禍で帰国さえ出来ない役立たずの姉の代わりに、妹は、ずっと年老いた両親の面倒を見ている。2人姉妹の姉である私がすべきことを彼女がしてくれているうえに、1年前にステージ4の肺がんが発覚した父の看病まで担っている。ただ、実際、その病人の父と高齢の母を抱えてのこの発言である。うろたえないわけはない。


“なぜ受けないの?“ と、遠慮がちに聞いてみると、意外な答えが返ってきた。


“だってワクチン打って死んでる人がいるんでしょ?“


まじですか?実際ワクチンを打って亡くなった人はいる。それは事実だけれど、しかしながら、当然コロナで亡くなった人の数は、その比較にさえならない。


私は、喉まで出かけた “いやいや、それは理にかなっていないよ“  と言う言葉を、一旦グッと飲み込んだ。そんな明確な事実を理解出来ない妹ではないはずだ。だから、その言葉の裏にある本当の理由を知りたいと思ったのだけれど、冷静に考えれば理由が何であれ、妹には確かにワクチンを打たない権利がある。ただ、ワクチンを打つリスクと家で寝たきりの父がコロナにかかる確率を考え、ワクチンを打たない選択をした父の面倒を見ているのが妹で、父の命を預かっていると言っても過言ではない。だから、妹には、どうしてもワクチンを打ってもらいたい。なのに、負い目を感じる私は、その一言を躊躇してしまう。


カナダでは、ワクチンを打たない人が約25%程いて、ワクチン接種率が所謂頭打ちになっている。それらの多くの人は、ただ漠然と、将来起こるかもしれないワクチン接種による後遺症を心配している。そう、確固たる信念や理念に基づいてと言うよりも、ただ何となく心配しているのだ。


その証拠に、10月からワクチンの2回接種の証明書がなければ、レストランやバーや娯楽施設が利用できなくなると政府が発表するやいなや、後遺症の心配はどこ吹く風で、突然ワクチン接種の申請が殺到したと言う。背に腹は変えられないってか?なんだか、笑ってしまう。今後、世界において、この様なワクチンパスポートやワクチン証明書の提示が常識となる日常が必ずやって来る。


今やデルタ株よって、ワクチン接種率が90%から95%にならなければ、集団免疫を取得することができないらしい。そして、その集団免疫を獲得する事がコロナを克服する唯一の手段であることを、私たちはもっときちんと認識するべきだと思う。


日本は、インドやチリのように、国民の多くが感染し、多大な犠牲者を出すことによって、その集団免疫を取得したいのだろうか? それとも、ワクチンを接種することによって集団免疫の獲得するのか、そんな簡単な選択を今しなければならないだけのこと。

 

ワクチンを打たないと言う妹。結局、それをどうしても、個人の選択で片付けてしまうことが出来ない姉。カナダに住んでいるから、コロナ禍だから、行けない、何も出来ない。。。。。

 

“結局、いつも逃げているよね“  妹の一撃が突き刺さる。

 

咄嗟に、脈絡なしに、“やっぱりワクチンを打ってほしい“ 私はそう口走っていた。

 

“お姉ちゃんにそれを言う資格ないよ“

 

お互い今まで言えなかった一言がやっと言えたことで、せき止められていた川が一気に流れだすように、妹が涙ながらに話し出した。経験した人だけにしか分からない介護の実態とその苦労、行き場のないストレス、自分一人で抱え込まなければならない理不尽さ、そして、孤独。

 

妹のワクチンを打たない本当の理由が、そこにあった。


嘘のように、なんだかすっと霧が晴れたように視界が広がった。何はともあれ、取り敢えず、大切な家族のもとに行く。そこから、何が出来るか考えよう。